NBA 初心者向け 難易度 ★★☆☆☆

なぜNBAは“拡張”に動くのか ―ラスベガス/シアトル新球団と、参入料70〜100億ドルの経済学

投稿日:2026年08月27日 約41分で読める 初心者向け
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  • なぜNBAは“拡張”に動くのか ―ラスベガス/シアトル新球団と、参入料70〜100億ドルの経済学の要点を短時間で把握できます。
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  • 執筆 SportsPulse編集部|最終更新 2026年8月2
執筆 SportsPulse編集部|最終更新 2026年8月27日|編集部レビュー済み編集方針 ›

「シアトルにNBAが帰ってくる」「ラスベガスに新球団」。2026年に入ってから、この見出しを何度も見かけたはずです。ですが、いま実際に決まっていることは、多くの記事が書いているより、ずっと少ない。

この記事は、NBAの拡張(エクスパンション)を確定した未来としてではなく、まだ結論の出ていない経営判断として読み解きます。鍵になるのは、1球団あたり70億〜100億ドルと語られる参入料が、誰の口から出た数字なのかという一点です。

この記事は NBAファンHUB の分析シリーズの1本です。試合そのものではなく、試合が成立している興行と経営のしくみを扱います。

先に結論(この記事の要旨・5点)

  1. 拡張は「決まった」のではなく「調べることが決まった」。2026年3月25日にNBA理事会(Board of Governors)が可決したのは、ラスベガスとシアトルへの拡張を正式に検討することを認める決議です(NBA公式リリース)。アダム・シルバー コミッショナーは同日、「拡張が起こらない可能性は絶対にある。1市場だけ、2市場、あるいはゼロという可能性もある」と明言しています。
  2. 「70億〜100億ドル」も「2028-29開始」も、NBA公式自身が“憶測”と書いている。NBA.comの記事は、参入料の見積もりについて「conjecture(憶測)…remains just that(憶測のままである)」と記し、開始年についても同じだと明記しました。本稿はこの2つを確定情報として扱いません。
  3. それでも金額が語られるのは、「比較対象」が実在するから。NBA公式は、その憶測がセルティックスやレイカーズといった既存球団の直近の売却額から逆算されたものだと説明しています。つまり値段の根拠は「新球団の収益予測」ではなく「中古の球団がいくらで売れたか」です。
  4. 本当の論点は、30を32で割り直すこと。報道ベースの全国メディア契約(11年約760億ドル)を前提に単純計算すると、球団数が30→32になった場合の1球団あたり年間取り分の目減りは約1,439万ドル(編集部試算)。一方、参入料の分配は1球団あたり約4.67億〜6.67億ドル。取り返すのに32〜46年かかるという計算になります(同・詳細は本文)。
  5. 次の節目は9月。ラスベガス・レビュー・ジャーナル紙は、拡張プロセスに関する次の公式な言及が9月のニューヨークでの理事会会合になると報じています(日程は未公表)。本稿は9月以降に必ず内容が変わる記事です。

1. まず事実を固める ―2026年3月25日に、何が可決されたのか

憶測が多いテーマほど、最初に一次情報だけで事実関係を確定させる作業が効きます。ここでは、NBAが自分の名前で公表した文書だけを使います。

2026年3月25日、ニューヨークで開かれたNBA理事会で、ひとつの議案が可決されました。NBAの広報部門(NBA Communications)が同日16時57分(UTC)に出した公式リリースは、こう書き出されています。

「NBA理事会は本日、ラスベガスおよびシアトルへの球団拡張の可能性を正式に検討する権限をリーグに与えることを議決した

このプロセスの一環として、NBAは投資銀行 PJT Partners を戦略アドバイザーとして起用し、対象市場の見込み、オーナー候補、アリーナのインフラ、および拡張がもたらす広範な経済的影響を評価する」
― NBA Communications 公式リリース(2026年3月25日)

同じリリースで、シルバー コミッショナーはこうコメントしています。「本日の議決は、ラスベガスとシアトル――NBAバスケットボールを長く支持してきた2つの市場――への拡張の可能性を探ることに、理事会が関心を持っていることを反映している」

ここで重要なのは、リリースに使われている動詞です。explore(探る/検討する)であって、expand(拡張する)ではありません。同日の会見でも、NBA.comの記者は「シルバーは、リーグが『拡張を検討している』のであって、まだ拡張を約束したわけではない、という言い回しに徹していた」と書いています。そして、シルバー自身の言葉。

「拡張が起こらない可能性は絶対にある。1つの市場にだけ拡張する可能性もある。2つかもしれないし、ゼロかもしれない」
― アダム・シルバー NBAコミッショナー(NBA.com、2026年3月25日)

「ゼロかもしれない」とリーグのトップが公の場で言っている段階です。これが2026年3月の到達点でした。NBA.comの記事は、決着していない変数として次の4つを挙げています。①どの陣営がオーナーになるのか ②球団数を32に増やすことの費用と便益 ③2球団分の戦力を賄える選手層があるか ④理事会の最終議決

なお同記事は、今回の検討ではカンザスシティ、ピッツバーグ、メキシコシティといった他都市が候補として浮上しなかった点を、過去の拡張検討との違いとして指摘しています。ラスベガスとシアトルの2市場に最初から絞られていた、ということです。

2. 「年内決定」とは、何が年内に決まることなのか

3月の会見でシルバーは、「2026年末までに前へ進める態勢を整えたい」と述べました。NBA.com記事はこれを「今後8か月で詰めるべき細目」と表現しています。3月から数えて8か月、つまり11月前後です。

7月、ラスベガスで開かれた2026年サマーリーグの会見で、この線はあらためて確認されました。NBA.comは「シルバーは、リーグのオーナーたちが次の拡張について2026年末までに判断したいと考えている、と繰り返し述べた」と記しています。同記事によれば、ラスベガスとシアトルの複数の競合オーナー陣営が、すでに資金計画・主要オーナー・アリーナ案・NBAをどうマーケティングするかまでを含む提案を提出済みです。

ただし、シルバーはこの会見でも一線を引いています。

「これまでのところ、見えているものは本当にありがたいと思っているし、非常に勇気づけられている。まだ何の議決も行われていない。関心を持つ各陣営との協議という点では、まだ道のりがある。だが私はここの将来について楽観的だ」
― アダム・シルバー(NBA.com、2026年サマーリーグ会見/2026年7月15日更新)

そして本稿執筆時点でいちばん新しい進捗は、8月22日付のラスベガス・レビュー・ジャーナル(LVRJ)の記事です。同紙は「拡張プロセスに関する次の公式な言及は、9月にニューヨークで行われるリーグの理事会会合になる。会合後、シルバー コミッショナーがメディアと会い、詳細を語る。会合の日程はまだ公表されていないと報じています。

同紙は続けてこう書きます。「その会合が来月開かれる頃には、年内に残るのは3か月あまり。シルバーは拡張の可否について年内に答えを出したいと述べてきた」。そして選択肢を3つに整理しています。①ラスベガスとシアトルの両方に加える ②どちらか一方だけ ③現時点では拡張を見送る。3つ目が消えていない、というのがこの記事の要点です。

読むときの注意点

「年内決定」という言葉は、「年内に拡張する」ではなく「年内に拡張するかどうかを決める」という意味です。日本語の見出しでは、この2つがしばしば同じ形に縮んでしまいます。現時点で確定しているのは、検討することと、その検討に期限の目安があること。それだけです。

3. 「70億〜100億ドル」は誰が言った数字なのか

本題です。この記事を書く動機になったのは、参入料(franchise entry fee)についてNBA公式が書いた、次の一文でした。

「したがって、セルティックスやレイカーズといった既存球団の近年の売却額から組み立てられた、70億〜100億ドルという参入料をめぐる憶測は、依然として憶測のままである。2028-29シーズンを新規参入球団の初年度とする話も同様だ」
― NBA.com(2026年3月25日/Steve Aschburner)※原文 “the conjecture about a franchise entry fee ranging from $7-10 billion … remains just that”

これは、リーグの公式サイトが自ら「その数字はまだ憶測だ」と釘を刺している、かなり珍しい記述です。NBAは参入料を提示していないし、2028-29という開始年も発表していません。ですから本稿は、この2つを断定しません。

では、なぜこの数字が消えないのか。同じ一文が答えを含んでいます。「既存球団の近年の売却額から組み立てられた」からです。つまり参入料の見積もりは、新球団の将来収益を積み上げたものではなく、「いま球団を買おうとしたらいくらかかるか」という市場価格からの逆算にすぎません。

では、その市場価格はどう動いてきたのか。まず、拡張料そのものの歴史を並べてみます。

表1|北米4大リーグの参入料・移転料(過去の実績と、今回の“憶測値”)
年(参入年度) リーグ 球団 金額(1球団あたり)
1995-96 NBA トロント・ラプターズ/バンクーバー・グリズリーズ 1億2,500万ドル
2000 NHL コロンバス・ブルージャケッツ/ミネソタ・ワイルド 8,000万ドル
2004-05 NBA シャーロット・ボブキャッツ(NBA最後の拡張) 3億ドル
2017-18 NHL ベガス・ゴールデンナイツ 5億ドル
2021-22 NHL シアトル・クラーケン 6億5,000万ドル
(参考・移転料) NFL ラスベガス・レイダーズ(オークランドから移転) 3億7,800万ドル
2028-29
(開始年も憶測)
NBA ラスベガス/シアトル(いずれも未確定) 70億〜100億ドル
※NBA公式が「憶測」と明記

出典:1995-96/2004-05/NHL各年/NFL移転料は Las Vegas Review-Journal(2026年3月25日)の記載。2028-29の70億〜100億ドルは NBA.com(2026年3月25日)が「憶測」と明記した見積もり。過去時点の金額は円換算していません(当時の為替と現在の為替は別物のため)。

独自集計①:もし憶測どおりなら、値上がり倍率はどれくらいか

表1の数字から、編集部で倍率と年平均成長率を計算しました。あくまで「憶測値がそのまま実現した場合」の仮定計算である点にご注意ください。

表2|NBA参入料の推移と成長率(編集部集計)
区間 経過年数 倍率 年平均成長率
1995-96(1.25億ドル)→ 2004-05(3億ドル) 9年 2.40倍 約10.2%
2004-05(3億ドル)→ 2028-29(70億ドル・下限) 24年 23.3倍 約14.0%
2004-05(3億ドル)→ 2028-29(100億ドル・上限) 24年 33.3倍 約15.7%
1995-96(1.25億ドル)→ 2028-29(70〜100億ドル) 33年 56〜80倍 約13.0〜14.2%

【独自集計の方法】参入料の実績値は Las Vegas Review-Journal(2026年3月25日)、2028-29の見積もりは NBA.com(同日)の記載。倍率と年平均成長率はSportsPulse編集部が算出(倍率=後年÷前年、小数第2位を四捨五入/年平均成長率=(後年÷前年)の1/経過年数乗−1、小数第2位を四捨五入)。参入年度の差を経過年数として扱っています。この表は憶測値を前提とした仮定計算であり、将来の参入料を予測するものではありません。

見えてくるのは、1995→2004の9年で年10.2%だった伸びが、2004→2028の24年では年14〜15.7%に加速しているという構図です。24年という長い期間、年14%を維持するというのは、複利で考えるとかなり強い仮定です。それが「憶測」と呼ばれる理由でもあります。

ちなみに、円に直すとどうなるか。70億ドルは約1兆1,147億円、100億ドルは約1兆5,924億円です(1米ドル=159.24円/欧州中央銀行 参照レート、レート日付2026年8月25日/換算日2026年8月26日)。1球団が、まだ1試合も戦っていない段階で、この額を支払うという想定です。

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記事で整理したポイントを踏まえて、比べやすい候補の一つを確認できます。

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4. 値段の出どころ ―「中古の球団」がいくらで売れているか

NBA公式が「セルティックスやレイカーズの売却額から組み立てられた」と書いた以上、その売却額を見ないことには話が進みません。LVRJ(2026年3月25日)の整理を、こちらで表にしました。

表3|近年のNBA球団売却額と、参入料“憶測値”との比率(編集部集計)
球団 買い手 金額 70億ドルは
その何倍か(編集部集計)
フェニックス・サンズ
(過半数取得・当時の最高額)
マット・イシビア 40億ドル 1.75倍
ポートランド・トレイルブレイザーズ トム・ダンドン 42.5億ドル 1.65倍
ボストン・セルティックス ビル・チザム 61億ドル
(報道ベース)
1.15倍
ロサンゼルス・レイカーズ マーク・ウォルター
(バス家から)
100億ドル 0.70倍
ロサンゼルス・レイカーズ
(2026年8月・再売却)
クシュナー/アイガー陣営 125億ドル 0.56倍

【独自集計の方法】売却額はいずれも Las Vegas Review-Journal(2026年3月25日/同8月22日)の記載に基づく報道値です。右端の「倍率」列はSportsPulse編集部が算出(70億ドル÷各売却額、小数第3位を四捨五入)。サンズの成立年について同紙は2022年と記していますが、媒体により合意年と完了年の表記が分かれるため、本稿では年を確定させず金額のみを扱います。レイカーズ再売却(125億ドル)は本稿執筆時点でリーグ承認プロセスが進行中であり、完了した取引ではありません。

この表がはっきりさせるのは、参入料の下限とされる70億ドルですら、セルティックスの売却額(61億ドル)を上回るという事実です。選手も、優勝旗も、本拠地アリーナも、地元の放映契約も持っていない「まだ存在しない球団」が、17回優勝している名門より高い値札を付けられている。この違和感が、拡張という制度の本質を照らします。

なぜ成立しうるのか。買い手が買っているのは、選手でも成績でもなく「30分の1の会員権」だからです。NBAという閉じたリーグの持分を、市場から買うか、リーグから新規発行してもらうか。その2択しかありません。そして市場に出てくる持分(=売りに出る球団)は、めったに出てこない。

その会員権の価値を押し上げてきたのが、全国メディア契約です。NBAは2024年、ウォルト・ディズニー・カンパニー(ABC/ESPN)、NBCユニバーサル(NBC/Peacock)、Amazon(Prime Video)との11年間の新メディア契約を公式に発表しました。2025-26シーズンから2035-36シーズンまで。金額についてNBAは公式に開示していませんが、複数の米メディアは総額約760億ドルと報じており、LVRJは「従来の契約(ESPN+TNT)は9年240億ドルだった」と書いています。

この2つを1シーズンあたりに直すと、従来=約26.7億ドル/年、新契約=約69.1億ドル/年(編集部集計)。約2.59倍です。参入料の「憶測値」が跳ね上がった理由の相当部分は、ここにあります。

金額の扱いについて(重要)
「11年」「2035-36シーズンまで」「3社の顔ぶれ」はNBA公式発表に基づく確定情報です。一方、「約760億ドル」はNBAが公表した数字ではなく、報道ベースの推計です。本稿では以降の試算でこの報道値を使いますが、試算の前提が報道値である以上、結論も報道値の精度を超えません。この点を明示したうえで読み進めてください。

5. 本当の論点 ―30で割っていたものを、32で割り直す

拡張の是非を、既存オーナーの立場から見てみます。ここが、この記事でいちばん書きたかった部分です。

LVRJ(2026年7月14日)は、シルバーが挙げた拡張の課題として「2つの新球団とリーグ収入を分け合うことによる、オーナー1人あたりの収入減」と「選手層への影響」の2つを報じています。前者を、数字で見ていきましょう。

全国メディア収入は、リーグが受け取って各球団に均等配分される性質の収入です。報道ベースの11年760億ドルを前提に、球団数が30から32に増えた場合を計算しました。

表4|30球団→32球団で、全国メディア収入の1球団あたり取り分はどう変わるか(編集部試算)
項目 米ドル 円換算
(1ドル=159.24円)
全国メディア契約 総額(11年・報道ベース) 760億ドル 約12兆1,022億円
1シーズンあたり 約69.1億ドル 約1兆1,002億円
1球団あたり/年(30球団 約2億3,030万ドル 約367億円
1球団あたり/年(32球団 約2億1,591万ドル 約344億円
差額=1球団あたりの年間目減り 約1,439万ドル 約23億円
参入料の分配(2球団合計140億ドルの場合)/既存1球団あたり 約4億6,667万ドル 約743億円
参入料の分配(2球団合計200億ドルの場合)/既存1球団あたり 約6億6,667万ドル 約1,062億円
一時金が目減り分に追いつかれるまでの年数 約32年(140億ドルの場合)〜 約46年(200億ドルの場合)

【独自試算の方法と限界】メディア契約総額(760億ドル・11年)および参入料レンジ(1球団70億〜100億ドル)はいずれも報道ベースの数値で、NBAの公式発表ではありません。参入料合計140億〜200億ドルが既存30球団に分配されるという構図は、LVRJ(2026年7月14日)がNBPA次期エグゼクティブ・ディレクターのデイビッド・ケリー氏の発言として報じた内容に基づきます。1シーズンあたり額・1球団あたり額・差額・回収年数はSportsPulse編集部が四則演算で算出(760÷11、÷30、÷32、差額の除算。いずれも表示は四捨五入、計算は未丸め値で実施)。
この試算は全国メディア収入のみを対象としています。入場料・地元放映権・スポンサー・グッズなど球団固有の収入は新球団が自ら稼ぐもので、既存球団から奪うものではありません。また新球団の参入により、リーグ全体の視聴者数やスポンサー価値が増える可能性も、この計算には含まれていません。したがって「32〜46年」は拡張の損得そのものではなく、“均等配分される収入だけを見た場合の目安”です。

それでも、この数字は拡張という判断の性格をよく表しています。既存オーナーにとって拡張とは、「毎年入ってくる収入の一部を永久に手放す代わりに、一度きりの巨額の現金を受け取る取引」です。だから金額が上がらないと割に合わない。逆に言えば、参入料の憶測値が70億〜100億ドルという水準まで来ているのは、この計算に耐える必要があるからだ、と読むこともできます。

そして、この分配には別の当事者がいます。LVRJ(7月14日)は、NBPA(選手会)次期エグゼクティブ・ディレクターのデイビッド・ケリー氏の発言をこう報じています。

「(参入料が選手の労使協定の外側で分配されるのは)歴史的にそうだったというだけのことだ。我々はそうあるべきだとは思わない。公平だとは思わない。もちろん、公平さはCBAの交渉においてはレバレッジと関係のない話だが、拡張球団がいつ入ってくるかによっては、間違いなく取り上げたい問題だ」
― デイビッド・ケリー NBPA次期エグゼクティブ・ディレクター(Las Vegas Review-Journal、2026年7月14日)

140億〜200億ドル(約2兆2,294億〜3兆1,848億円/1ドル=159.24円・2026年8月25日レート、換算日2026年8月26日)が、選手の取り分の計算から外れたところでオーナー側に渡る。拡張が「オーナーだけの話」で終わらない理由が、ここにあります。

6. 2つの市場 ―シアトルは「返済」、ラスベガスは「延長」

なぜこの2都市だったのか。NBA.comの記事は、両者を対照的に描いています。

6-1. シアトル ―投資機会であり、同時に「借りを返すこと」

NBA公式記事は「シアトルは単なる投資機会ではない。借りを清算する方法でもある」と書いています。シアトル・スーパーソニックスは1967年から2008年まで41シーズンにわたって太平洋岸北西部に存在し、1979年に優勝、ほかに2度ファイナルに進出しました。ゲイリー・ペイトン、ショーン・ケンプ、スペンサー・ヘイウッド、デニス・ジョンソン、ガス・ウィリアムズ、ジャック・シクマ、トム・チェンバース、レイ・アレン――そして短期間ながらケビン・デュラント。

2006年10月にオクラホマの実業家クレイ・ベネット氏が球団を買収し、2008年7月にオクラホマシティへ移転。移転先のサンダーは2010年にファイナルへ進み、2025年6月に優勝しています。NBA公式は、デュラント、ラッセル・ウェストブルック、シェイ・ギルジャス・アレクサンダーの3人がOKC所属時にMVPに選ばれたと記しています。

デュラント本人の反応が、この市場の性格を言い当てています。理事会の議決を控えた時期、シカゴでの試合後に彼はこう語りました。

「シアトルにバスケットボールが戻る時が来たんだ。北西部ではずっと惜しまれてきた」
「彼らは(球団に)値する。20年近くバスケがなかったんだから、すごく興奮しているだろうね」
― ケビン・デュラント(NBA.com、2026年3月25日)

ただし、オーナー候補という点ではシアトルは静かです。LVRJ(7月14日)は「シアトルで関心を公にしているオーナー陣営は1つだけ」と報じています。もっとも、この点についてはシルバー自身が「公になっていない陣営のほうが多い」と釘を刺しています。公表数=関心の大きさではないということです。

6-2. ラスベガス ―すでに「31番目の球団」がある街

ラスベガスにNBA球団が置かれたことは一度もありません。しかしNBA公式が言うように、この街はずっと「リーグの弟分」でした。サマーリーグの開催地であり、各種会議、オフシーズンのトレーニングプログラム、アメリカ代表の練習拠点。2007年にはオールスターゲームも開催しています。その後、NHL・NFL・MLB・WNBAの球団を次々に迎え入れ、スポーツ都市として急成長しました。

7月のサマーリーグ会見で、シルバーはこの関係をユーモアを交えて表現しています。

「ラスベガスの拡張球団について質問されるだろうことは分かっている。ただ私は、『我々はすでにここにフランチャイズを持っている。それがサマーリーグだ』と言うのが好きでね。実質的に22年間、我々の31番目の球団として運営されてきた。実に見事なことだ」

「NBAの外側では予想していなかったことだが、ここはいまアメリカのユースバスケットボールの中心地になっている。大規模な施設だけでなく、街中のコートの数、トレーナー、そして関心の高さ。もちろんWNBAもここで大成功を収めている」
― アダム・シルバー(NBA.com、2026年サマーリーグ会見)

オーナー候補の状況は、この半年で入れ替わりました。LVRJ(8月22日)の整理では、年初以降にラスベガス球団への関心を示した陣営は5つ。うち2つがすでに脱落しています。

表5|ラスベガスのオーナー候補陣営(2026年8月22日時点・報道ベース)
陣営 中心人物 状況
ラスベガス・ジャックス ジェリー・コランジェロ
(元サンズ/マーキュリー/ダイヤモンドバックス オーナー)
継続中。アリーナ設計で建築家デビッド・マニカ氏の事務所(アレジアント・スタジアム等を手掛けた)と組んでいると同紙は報じている
ベガス・ウォンツ・ザ・NBA ビル・フォーリー
(ゴールデンナイツ オーナー)
継続中
ウォルトン/ローリー陣営 ナンシー・ローリー・ウォルトン氏(ウォルマート創業家)と夫ビル・ローリー氏 継続中
クシュナー/アイガー陣営 ジョシュア・クシュナー氏、ボブ・アイガー氏(元ディズニーCEO) 2026年8月に離脱。レイカーズの過半数株を125億ドルで取得したためと同紙は報じている
MAGI Group アービン“マジック”ジョンソン氏 年内に関心を表明したが、近月は沈黙していると同紙は記している

出典:Las Vegas Review-Journal(2026年8月22日/同7月14日)。すべて報道ベースであり、NBAが公表した候補リストではありません。同紙によれば、ラスベガスでは12件近くのアリーナ計画が提案されており、今後さらに増える可能性が高いとされています。
※媒体の利害関係について:Las Vegas Review-Journal は同紙自身が記事末尾で、アデルソン家およびデュモン家(NBAダラス・マーベリックスのオーナー)が所有する媒体であり、パトリック・デュモン氏はNBA理事会のメンバーである旨を開示しています。本稿はこの開示を踏まえたうえで、同紙の記述を「報道」として扱っています。

ここで注意したいのは、カード段階でよく引用されている7月時点の候補リストが、8月には古くなっているという点です。7月14日のLVRJ記事は、ラスベガスの4陣営としてコランジェロ、マジック・ジョンソン、ボブ・アイガー、ビル・フォーリーを挙げていました。その1か月後には、アイガー陣営はレイカーズへ移り、ジョンソン氏の陣営は沈黙している。拡張の記事は、1か月で内容が変わります。

地元行政の姿勢も報じられています。クラーク郡委員会のマイケル・ナフト委員長はLVRJに対し「NBAが非法人クラーク郡に来ることを楽しみにしている。円滑かつ成功裏に進むよう、あらゆる関係者と協力していく」と述べ、新アリーナの受け入れ余地についても「郡はもうひとつのスポーツ施設を支えられると確信している」と語っています。

7. 「選手は足りるのか」問題

拡張の障壁として繰り返し語られるのが、選手層の希薄化です。2球団増えれば、NBA水準にない選手を30人以上ロースターに入れることになるのではないか、という懸念です。

これに対するシルバーの回答は明快でした。NBA.com(3月25日)によれば、彼は直近の複数球団同時拡張(1995-96年のトロント/バンクーバー)からの30年間で世界的な人材市場が爆発的に拡大したことを挙げ、こう述べています。

「32の競争力あるチームを埋めるだけの人材は十分にある、というのが私の見方だ」
― アダム・シルバー(NBA.com、2026年3月25日)

選手側からも同趣旨の発言が出ています。NBPA執行委員でヒューストン・ロケッツのフレッド・ヴァンヴリートは、7月のラスベガスでの会見でこう語ったとLVRJは報じています。「これは我々(NBA)がこれまでに持った中で最高の人材だ。選手はどんどん上手くなっているし、若い選手は以前より早くプロ化している。大学時代から報酬を得ているからだ。パイプラインはかつてないほど良い。2球団増やしたところで、人材が薄まる懸念はないと思う」

ただしヴァンヴリートは、拡張が実際に前進した場合には「拡張ドラフトなどの点で、あらためて考え直す必要がある」とも付け加えています。既存30球団から誰をどう供出するかというルール設計は、まだ何も決まっていません。ドラフト制度そのものの読み方については NBAドラフトはなぜ重要なのか もあわせてどうぞ。

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8. 日本語記事で見かける「拡張まわりの誤り」5つ

このテーマは未確定要素が多く、日本語圏で情報が変質しやすい領域です。編集部が2026年8月26日に一次情報と照合して確認した、間違えやすい点を挙げておきます。

誤り① 「NBAはラスベガスとシアトルへの拡張を決定した」

決定していません。2026年3月25日に理事会が可決したのは「正式に検討する権限をリーグに与える」議決です(NBA公式リリース)。シルバー自身が「拡張が起こらない可能性は絶対にある」と会見で述べています。

誤り② 「参入料は70億〜100億ドルに決まった」「2028-29シーズン開始が決定」

どちらもNBA公式記事が「憶測であり、憶測のままである」と明記しています。参入料の水準はリーグから提示されていませんし、開始年も発表されていません。LVRJも「新球団が加わる場合、2028-29シーズン開始が見込まれる」という見込みの表現を使っています。

誤り③ 「NBAの最後の拡張は1995年」

正しくは2004年のシャーロット・ボブキャッツです。NBA公式記事が「直近の複数球団同時拡張(most recent multi-franchise expansion)」としてトロント/バンクーバーを挙げているため、「複数球団同時」の部分が落ちて伝わりやすい表現です。「1球団の拡張なら2004年が最後、複数球団同時なら1995-96年が最後」と書き分けるのが正確です。

誤り④ 「ラスベガスの本命はボブ・アイガー陣営」

2026年7月時点の記事にはそう読める記述がありますが、LVRJ(8月22日)によればアイガー氏とジョシュア・クシュナー氏の陣営は8月にレイカーズの過半数株を125億ドルで取得し、ラスベガスの争いから離脱しています。7月の記事だけを読むと、1か月ぶんの変化を丸ごと取りこぼします。

誤り⑤ 数値・記録は必ず公式で当たり直す(本稿の作法)

NBA関連の和文記事では、いったん流通した数字が訂正されないまま増殖することがあります。本稿執筆にあたって編集部が確認した例を2つ挙げます。

・歴代最多勝監督はグレッグ・ポポビッチ。NBAは2025年7月、2024-25シーズンに欠場した77試合分をミッチ・ジョンソン氏に付け替え、ポポビッチの通算成績を1,390勝824敗に修正しました。NBA公式は「ポポビッチはリーグ史上最多勝の監督であり続け、ドン・ネルソンの1,335勝を53勝上回っている」と明記しています。「ネルソンが歴代最多」は誤りです。

・ラッセル・ウェストブルックの2017年MVPは満票ではありません。1位票は101票中69票(総得点888点)で、ジェームズ・ハーデンが1位票22票・総得点753点でした。本稿の第6章でMVPに触れていますが、票数の断定は行っていません。

9. 現時点で分かっていないこと(本稿が断定しない部分)

分析記事でいちばん危険なのは、空白を推測で埋めることです。2026年8月26日時点で決まっていないことを、明示しておきます。

  • 拡張するかどうか自体が未確定。「2市場」「1市場」「見送り」の3択がすべて生きています(NBA.com/LVRJ)。
  • 参入料の金額は非公表。70億〜100億ドルはNBA公式が「憶測」と明記した数値です。リーグから提示された額ではありません。
  • 開始シーズンも非公表。2028-29は「見込み(speculated)」です。
  • オーナー陣営は確定していない。シルバーは「関心を持つ陣営の多くは公になっていない」と述べています。表5は報道ベースの整理であり、NBAの候補リストではありません。
  • アリーナも決まっていない。LVRJによればラスベガスだけで12件近い計画が提案されている段階です。
  • 9月の理事会会合の日程も未公表。LVRJが8月22日時点で「まだ公表されていない」と明記しています。
  • 本稿は結果を予想しません。「どちらの陣営が選ばれるか」「本当に2球団になるか」といった予測は行いません。書けるのは、公表された文書と発言に記されていることだけです。

まとめ ―拡張は「増やす」判断ではなく「割り直す」判断

拡張のニュースは、ふつう「新しい球団が生まれる」という足し算の物語として読まれます。しかしオーナーの側から見れば、これはいま30で割っている分母を32に変えるという割り算の判断です。均等配分される全国メディア収入だけを取り出せば、1球団あたり年約1,439万ドル(約23億円)が永久に減る。その埋め合わせが、一度きりの参入料分配(1球団あたり約4.67億〜6.67億ドル)である――回収には32〜46年かかる、というのが本稿の試算でした(いずれも報道ベースの前提に基づく編集部試算)。

だからこそ、金額は上がらざるを得ない。そして金額が上がるほど、払える買い手は絞られ、決定には時間がかかる。「なぜ年内なのに、まだ決まらないのか」の答えは、この構造の中にあります。

シアトルにとっては20年近い不在の終わり、ラスベガスにとっては22年続いたサマーリーグの延長線。物語としては、どちらも完成度が高い。ですが物語の完成度と、経営判断は別のものです。本稿が扱ったのは後者だけです。次の手がかりは9月。日程はまだ、公表されていません。

よくある質問(FAQ)

Q1. 結局、シアトルとラスベガスに新球団はできるのですか?

まだ決まっていません。2026年3月25日にNBA理事会が可決したのは「正式に検討することを認める」議決です。シルバー コミッショナーは同日、「拡張が起こらない可能性は絶対にある。1市場だけかもしれないし、2市場かもしれないし、ゼロかもしれない」と述べています。ラスベガス・レビュー・ジャーナル紙も、①両方 ②一方だけ ③見送り、の3つの可能性を並記しています。

Q2. 参入料70億〜100億ドルというのは公式発表ですか?

違います。NBA.comの記事自身が「70億〜100億ドルという参入料をめぐる憶測は、依然として憶測のままである」と明記しています。この数字は、セルティックス(61億ドル)やレイカーズ(100億ドル)といった既存球団の売却額から逆算されたものだと同記事は説明しています。NBAが提示した金額ではありません。

Q3. なぜ「まだ存在しない球団」が、名門セルティックスより高いのですか?

買い手が買っているのが、選手や成績ではなく「リーグの持分(会員権)」だからです。NBAは閉じたリーグで、持分を得る方法は「既存球団を買う」か「リーグに新規発行してもらう」かの2つしかありません。全国メディア契約は2025-26から2035-36までの11年契約(NBA公式発表・金額は非開示。報道では約760億ドル)で、この均等配分がすべての球団の価値を底上げしています。参入料は、その配分の輪に入るための入場料という性格を持ちます。

Q4. 既存の30球団にとって、拡張は得なのですか?

一概には言えません。報道ベースの前提で編集部が試算すると、全国メディア収入の1球団あたり年間取り分は30球団時の約2億3,030万ドルから32球団時の約2億1,591万ドルへ、年約1,439万ドル目減りします。一方で参入料の分配は1球団あたり約4.67億〜6.67億ドル。この2つだけを比べると回収に32〜46年かかる計算です。ただし新球団は自分の入場料・地元放映権・スポンサー収入を自ら稼ぐため既存球団から奪うわけではなく、リーグ全体の価値が上がる可能性もこの計算には入っていません。あくまで「均等配分される収入だけを見た場合の目安」です。

Q5. 選手側はどう見ているのですか?

2つの論点が報じられています。①戦力の希薄化については、NBPA執行委員のフレッド・ヴァンヴリートが「パイプラインはかつてないほど良い。2球団増やしても人材が薄まる懸念はない」と述べたとLVRJが報じています。シルバーも「32チームを埋める人材は十分にある」との見方です。②参入料の分配については、NBPA次期エグゼクティブ・ディレクターのデイビッド・ケリー氏が「選手のCBAの外側でオーナーに分配されるのは公平だとは思わない」と述べており、こちらは対立点として残っています。

Q6. 次に動きがあるのはいつですか?

ラスベガス・レビュー・ジャーナル紙(2026年8月22日)は、次の公式な言及は9月のニューヨークでの理事会会合になると報じています。会合後にシルバー コミッショナーが会見を行う見込みですが、会合の日程は同紙の記事時点でまだ公表されていません。同紙は「その頃には年内に残るのは3か月あまり」と書いています。本記事も9月の会合後に更新する予定です。

Q7. シアトル・スーパーソニックスは、なぜ移転したのですか?

NBA公式記事によれば、球団は2006年10月にオクラホマの実業家クレイ・ベネット氏に買収され、2008年7月にオクラホマシティへ移転しました。ソニックスは1967年から2008年まで41シーズン存在し、1979年に優勝、ほかに2度ファイナルへ進出しています。同記事は「オクラホマシティでの成功が、多くのソニックスファンの喪失感を消し去ったわけではない」と書いています。移転先のサンダーは2025年6月に優勝しました。

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出典

すべて2026年8月26日に確認。◎は一次情報(NBAの公式発表・公式サイト記事)、○は二次情報(報道)。

本記事について

本記事は公開情報と編集部レビューをもとに構成しています。取材・独自調査・アンケートは行っていません。掲載した発言はすべて、上記の一次情報(NBAの公式発表・公式サイト記事)および二次情報(報道)に記載されたものです。

表2・表3・表4の「倍率」「年平均成長率」「1球団あたり額」「差額」「回収年数」は、公表値・報道値に対する編集部の四則演算による集計・試算です(算出方法は各表の下に明記)。試算の前提には報道ベースの数値(メディア契約総額・参入料レンジ)が含まれており、結論の精度はその前提を超えません。

金額の円換算は、1米ドル=159.24円(欧州中央銀行 参照レート/レート日付 2026年8月25日)を用い、換算日は2026年8月26日です。為替レートは日々変動するため、時間の経過とともに円換算額は実勢と乖離します。1995年・2004年の参入料など過去時点の金額は、現在のレートで換算すると誤解を招くため円換算していません。

拡張の可否、参入料の金額、開始シーズン、オーナー陣営、アリーナはいずれも本稿執筆時点で確定していません。本稿はこれらについて断定的な記述および将来予想を行っていません。

記載内容は確認日時点のものです。2026年9月に予定されているNBA理事会会合以降、内容が変わる可能性が高い記事です。更新の際は、上記の可視更新日を必ず打ち直します。

最終更新:2026年8月26日(公開:2026年8月26日)

執筆: SportsPulse 編集部

最終更新日: 2026年8月27日 | 編集方針

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📅 更新履歴
日付変更内容
2026年8月27日初回公開
✅ ファクト再検証

最終検証日:2026年8月27日

SportsPulse 編集部が公開情報をもとに内容を確認しています。情報は確認時点のものです。最新情報は各公式サイトをご確認ください。

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