F1 初心者向け 難易度 ★★★★☆

小松礼雄が率いるハース、予算最下位でも戦える設計とは|VF-26の技術戦略

投稿日:2026年02月18日 約12分で読める 初心者向け
この記事のポイント

ハースVF-26は、2026年新規定(PU電動化50%、アクティブエアロ、車体寸法縮小、100%持続可能燃料)に対応した完全新設計マシン。Ferrari製パワーユニットを継続使用しながら、シャシーはDallaraとの共同開発、新たに加わったToyota Gazoo Racing(TGR)の風洞・シミュレーター・データ解析リソースを活用する「リーン参戦モデルの進化形」である。チーム代表は日本人初の小松礼雄、ドライバーはエステバン・オコン+オリバー・ベアマン。F1で最も限られた予算の中で、「集中と選択」を徹底することで中団グループ上位に食い込む戦略を取る。

VF-26の現在地:「最小投資で最大効率」のコンセプト

2026年シーズン開幕3戦終了時点で、TGR Haas F1 Teamはコンストラクターズ選手権で中団上位に位置している。VF-26は2026年1月19日にデジタルローンチで公開された完全新設計マシンで、リバリーは伝統のレッドにToyota Gazoo Racingのホワイトを大胆に組み合わせた新デザイン。シャシー名「VF」はHaas Automation の主力CNC旋盤の型番「VF」に由来し、創業時から続くブランドアイデンティティの象徴である。チーム代表の小松礼雄は「F1で最も予算が少ないチームでも、戦略的な集中と選択をすれば中団上位は十分狙える」と一貫して発言しており、VF-26の設計思想は彼の経営方針を技術面で具現化したものといえる。

2026年新規定がVF-26に課した3つの宿題

2026年F1新規定は、過去十数年で最も大規模な変更を伴うシーズンとなった。第一の宿題はパワーユニット規定の刷新。1.6L V6ターボハイブリッドはそのままに、内燃機関(ICE)出力が約400kW、MGU-K出力が約350kW(従来の約3倍)、MGU-Hは廃止され、燃料は100%持続可能なe-fuelが義務化された。第二の宿題はシャシー寸法の縮小。ホイールベース-200mm、車幅-100mm、最低重量-30kgという過去十数年で最大級の変更で、空力・重量配分・サスペンションすべての再設計が必要だった。第三の宿題はアクティブエアロダイナミクスの解禁。DRSに代わる新システムで、ストレートでドラッグを抑え、コーナーでダウンフォースを稼ぐスイッチ式エアロが採用された。VF-26はこの3つすべてに「ハースのリソース内で最適解を出す」という設計思想で挑んでいる。

パワーユニット:Ferrari 1.6L V6ターボハイブリッド

VF-26のパワーユニットは、フェラーリ・マラネロで開発された2026年規定対応の1.6L V6ターボハイブリッドを搭載する。ハースは2016年の参戦以来一貫してフェラーリ顧客チームであり、PU供給契約は2026年以降も継続。スペックの詳細は以下の通り:内燃機関出力は約400kW、MGU-K出力は約350kW(従来の120kWから約3倍)、MGU-H廃止、燃料は100%持続可能燃料、合計出力は約750kW(約1,000馬力)に達する。ハースにとってフェラーリPUを使う最大のメリットは、フェラーリが2026年規定に向けて投じた巨額の開発費を、顧客チームとして低コストでアクセスできる点。シャシー側はそのフェラーリPUに最適化する形で設計されており、エンジンマウント、冷却系、エネルギー回生システムの統合は、過去10年の蓄積を活かして滑らかに進んだ。

アクティブエアロダイナミクス:DRSの代替システム

2026年新規定で最も注目される技術変更が、アクティブエアロダイナミクスの導入だ。これまでの DRS(ドラッグ・リダクション・システム)は前車から1秒以内のときだけ使えるオーバーテイク用ツールだったが、新規定ではフロント&リアウイングのフラップ角度を「ストレート=低ドラッグモード」「コーナー=高ダウンフォースモード」に常時切り替える仕組みになった。VF-26のアクティブエアロ実装は、フェラーリPUとの協調制御を重視した保守的な設計で、攻撃的な切り替えタイミングよりも信頼性を優先している。これは「予算が限られたチームは未知の領域で攻めない」という小松礼雄の哲学を体現する選択で、シーズン序盤の安定したフィニッシュ率の高さに直結している。

シャシー&Dallara共同開発体制

VF-26のシャシーは、ハースが伊・パルマのモータースポーツ・コンストラクター「Dallara」(ダラーラ)と共同で開発している。ハースは参戦初年度の2016年からDallaraに技術支援を委託しており、モノコック設計、空力部品、コンポジット製造の一部をDallaraが担当する。このリーン参戦モデルは「自社で全てを作らず、各分野の専門会社に委託する」というハース流の合理化で、F1業界では「コピーチーム」「フェラーリBチーム」と批判もされたが、コストキャップ時代の到来でむしろ「賢い選択」と評価が変わってきた。VF-26ではダラーラが2026年新規定向けに刷新した新世代のCFD解析と風洞データを活用、過去のVFシリーズと比較してシャシーの剛性とフロアの空力効率が大きく向上している。

TGR(Toyota Gazoo Racing)パートナーシップの技術貢献

2026年から、ハースは Toyota Gazoo Racing をタイトルパートナーに迎え、チーム名も「TGR Haas F1 Team」に改称された。TGRからの技術貢献は3領域に及ぶ:第一に風洞へのアクセス。トヨタ自動車のケルン技術センター(TMG)にある最先端の風洞を、ハースの空力チームが共同利用できる契約となった。第二にシミュレーター技術。トヨタが世界耐久選手権(WEC)ハイパーカークラスで蓄積したドライバー・イン・ザ・ループ型シミュレーターのノウハウが、ハースのシミュレーター環境改善に活かされる。第三にデータ解析。トヨタの量産車向け開発で培われたデータサイエンス・機械学習ノウハウが、レース週末のセットアップ最適化や戦略決定に提供される。これら3領域での支援は、ハースが自社で投資すれば数千万ドル規模になる項目を、パートナーシップで安価に獲得する仕組みだ。

小松礼雄体制下の「集中と選択」開発戦略

VF-26の開発を技術面で指揮しているのは、2024年シーズン開幕からハース・チーム代表を務める小松礼雄である。1976年生まれの英国・東京大学卒、ロータス/ルノー時代からF1のレースエンジニアを経験してきた人物で、エンジニアリング背景の強い指揮官として知られる。小松の哲学は「F1で最も予算が少ないチームは、全ての領域で平均点を狙うのではなく、特定の領域で他チームを上回る尖ったクルマを作るべき」というもの。VF-26では具体的に3つの「集中投資領域」を選んだ。第一にフロアの空力効率(フロアエッジとディフューザー形状の最適化)、第二にタイヤマネジメント(決勝でのデグラデーション制御)、第三にPU協調制御(ERSの放電タイミング最適化)。一方で、車体構造の細部や見えない領域は意図的に保守的な設計を採用し、開発リソースを優先項目に集中させる戦略を取った。

ライバル比較:限られた予算でどう戦うか

2026年規定下で、ハースの予算規模はトップチーム(メルセデス、フェラーリ、レッドブル、マクラーレン)の半分以下とされる。コストキャップ規定で全チームの予算上限は同じだが、過去の蓄積資産(風洞、シミュレーター、人材ネットワーク、開発実績データ)には大きな差がある。ハースの戦略は「同じ予算でも、固定コストを最小化し、可変コスト(部品・テスト)に集中投下する」というもの。Dallaraへの委託、Ferrari からのPU供給、TGRからの設備アクセス、これら全てが固定コスト削減策である。同じ中団グループのアルピーヌ、アストンマーティン、ウィリアムズと比較した場合、ハースの強みは「組織のリーンさ」と「意思決定の速さ」、弱みは「自社開発リソースの絶対量」となる。シーズン中盤以降のアップグレード合戦では、この強みと弱みが直接比較される局面が訪れる。新規定下でアルピーヌがメルセデスPUへ移行した今、PUサプライヤー別に見ると「ハース=フェラーリPU」「ザウバー(Audi)=Audi自社PU」が中団グループのフェラーリ・Audi系列、対して「アルピーヌ=メルセデスPU」がメルセデス系列という分布。同じ予算規模でPUの素性が異なる4チームの直接対決は、2026年の隠れた見どころのひとつである。

VFシリーズという伝統:ハース10年の積み上げ

ハースのシャシー名「VF」シリーズは、創業時から続くブランド資産のひとつだ。VF-16(参戦初年)から VF-26 まで、毎年の新車には必ずこの命名規則が適用される。「VF」は Haas Automation の主力CNC旋盤の型番に由来し、F1チームと工作機械事業をブランド一体運用する戦略を象徴している。10年の積み上げで言えば、初年度のVF-16はDallara設計の依存度が極めて高く「Dallaraシャシー」と揶揄されたが、VF-26では空力部品の自社設計比率が大幅に上昇、コアモノコックも自社のオックスフォードシャー州バンベリー工場で製造されるようになっている。「リーン参戦モデル」を保ちつつ、自社化できる領域を一つずつ増やすという、極めて慎重な内製化ロードマップが裏で進んでいる。

シーズン後半の技術アップデートで何を見るか

2026年シーズン後半、VF-26には複数の技術アップデートが投入される予定だ。第一弾はマイアミGPからスペインGPにかけてのフロアアップデート。フェラーリPUの最新マッピングと組み合わせて、決勝ペースで0.1〜0.2秒の改善を狙う。第二弾はシルバーストンGP前後の大型アップグレード。ここではTGRの風洞データを活用したサイドポッド形状の刷新と、リアウイングの新世代フラップが導入される予定。第三弾は秋のシンガポール/鈴鹿GP前のシーズン最終アップグレード。ここで来季VF-27に向けた基礎技術のテストも兼ねた更新が行われる。シーズンを通してアップデートが効果を発揮するか、ライバルとの相対パフォーマンスがどう変化するかが、2026年のハースの真価を測る最大の指標となる。

2026年シーズン後半に注目すべき5つの技術ポイント

第一に、フロアアップデートの効果がレースペースに現れるか。第二に、TGRの風洞データを活用した新世代サイドポッド形状が中団トップに浮上する起爆剤となるか。第三に、フェラーリPU最新マッピングのマシンへの統合がどのレースで完成するか。第四に、シーズン後半のドライバー間バトル(ベアマン×オコン)がチーム合計ポイントを伸ばすか。第五に、来季VF-27の基礎技術が秋のアップグレードでテスト投入されるか。VF-26の2026年は、結果と同じくらい「来季への布石」が問われる年であり、シーズン終了時点での技術蓄積がチームの長期計画を左右する。

関連アイテム

あわせて読みたい

この記事に関連するF1ギア

VF-26の技術と、ハースの「リーン参戦モデル」を深掘りするためのファンギアと書籍をピックアップ。Amazon でそのまま検索・購入できます。

※ Amazonアソシエイト・プログラムを利用しています。リンクはsportspulse-22タグ付きでAmazon検索ページに遷移します。

出典・参考情報

本記事の数値・日程・技術仕様は以下の公式・一次ソースを参照しています。最新情報は各公式サイトをご確認ください。

執筆: SportsPulse 編集部 / 最終更新: 2026-05-05

他チームのマシン解説

F1中継をライブで観るなら

フジテレビNEXT(スカパー!)で視聴する

月額視聴料0円スタート・申込後30分で視聴可能

この記事に関連するF1ギア

F1 2026 公式チームキャップ
公式ライセンス 編集部おすすめ

F1 2026 公式チームキャップ

推しチームを身につけてレースを楽しめる公式ライセンスグッズ。

最初のF1グッズとして説明しやすい定番です。

¥4,500〜

価格帯を確認する

※ スポンサーリンク経由で価格先へ移動します

サーキット観戦用 ノイズリダクションイヤープラグ
Race Day 編集部おすすめ

サーキット観戦用 ノイズリダクションイヤープラグ

サーキット観戦の必需品。エンジン音から耳を守りつつ会話も可能。

初観戦や現地観戦の文脈でも置きやすい補完枠です。

¥2,200〜

価格帯を確認する

※ スポンサーリンク経由で価格先へ移動します

記事URLをコピーしました