レーシングブルズ(VCARB)は2026年、新マシン「VCARB 03」で「兄チームのコピー」をやめる路線を本格化させた。チーフ・テクニカル・オフィサーのジョディ・エギントンが「レッドブルのコピーは作らない」と宣言し、フロアの設計思想からゼロで組み直した1台。PUは2026年からレッドブル・フォード製の新世代に切り替え、シャシー側はファエンツァのファクトリーで非リストパーツ共有の利点を活かしつつ、独自空力で勝負する。ドライバーはリアム・ローソンとF1デビューのアービッド・リンドブラッドの2人体制で、チーム代表はアラン・パーメイン(メキーズのレッドブル昇格に伴い昇格)が務める。本稿はレッドブル系「弟チーム」の独自路線を、技術・組織・ドライバー・序盤戦の4軸で読み解く。
レーシングブルズ(旧トロ・ロッソ/アルファタウリ/RB)は2026年、シャシー設計の独自路線を強化した1年として記憶されるかもしれない。2026年型マシン「VCARB 03」は、これまで「兄チーム(レッドブル)の縮小版」と揶揄されてきた中団チームが、自前の設計哲学で勝負することを明確に打ち出した1台だ。本稿はその独自路線の中身と、それを支える組織・PU・ドライバーの全体像を徹底解説する。
「弟チーム」の定義──リストパーツ/非リストパーツの境界線
F1のテクニカルレギュレーションでは、シャシー部品が「リストパーツ」と「非リストパーツ」の2種類に区別される。リストパーツとはモノコック、フロントウィング、フロア、ディフューザー、リアウィングなど「マシンの空力性能を決める主要部品」のことで、これらはチームが自社で設計・製造する必要がある。一方、非リストパーツにはギアボックスケーシング、油圧系、ブレーキディスク、サスペンションの一部などが含まれ、これらは他チームから購入することが許可される。

レーシングブルズはこの仕組みを最大限に活用し、非リストパーツをレッドブル本体から購入することで、限られた予算と人員を空力リストパーツの開発に集中投下するモデルを採用してきた。ただし2024年シーズンから「コスト効率重視で兄チームの設計を真似しすぎる」傾向が強まり、レーシングブルズが「ミニ・レッドブル」と評される時期もあった。2026年のVCARB 03は、この路線からの明確な舵切りを意味する。
パワーユニット──レッドブル・フォード製PUのカスタマー
レーシングブルズは2026年から、新規PU「レッドブル・フォード・パワートレインズ(RBPT+フォード)」を搭載する。レッドブル本体(ワークス)と同一のPUを共有でき、これは中団チームには稀有なアドバンテージだ。レッドブルが自社PU開発に乗り出したのは2022年で、2026年規定向けに英国・ミルトン・キーンズに新設したRBPT拠点で内製、フォードとのパートナーシップによりバッテリーセル技術とERS(エネルギー回生システム)領域でアメリカ側の技術知見を取り込んでいる。
2026年規定はハイブリッド比率を約20%から約50%に大幅に上げ、MGU-Hを廃止、合成燃料100%へ移行する大改訂だ。新規PU初年度は信頼性課題が出やすく、レッドブル本体ですら序盤戦は完成度に課題を抱える状況下で、レーシングブルズも同様のリスクを抱える。一方で、ワークスPUを使うことでPU側の制御マッピングや補機配置がレッドブル本体の知見と同期しており、メルセデスやフェラーリの顧客チームと比べて運用面の優位を持つ。
シャシー独自設計への転換──エギントンの宣言
2026年シーズンに向けて、レーシングブルズのチーフ・テクニカル・オフィサージョディ・エギントン(Jody Egginton)は「レッドブルのコピーは作らない」と公言した。2024〜2025年に「ミニ・レッドブル化」していた設計思想を、フロア・ディフューザー・サスペンションのコア領域でゼロから組み直す方針への転換である。
これは単に独自性を出したいというPRではない。レッドブル本体は2026年から自社製PU初年度の難局に入り、開発リソースの大半をRB22の改善に集中投下する状況であり、レーシングブルズが過去のように「兄チームの設計を借りて間に合わせる」戦略を続けると、レッドブル本体の苦戦が直接波及するリスクが高い。むしろ独自路線を取り、自前の風洞・CFDで開発を完結させる体制を構築した方が、中団グループでの相対競争力を維持しやすいという経営判断である。
VCARB 03の設計特徴──大型ロールフープと白+青リバリー
VCARB 03は2026年シーズン用マシンとして、いくつかの注目すべき設計特徴を持つ。最大の話題は異常に大きく形成されたロールフープだ。ロールフープは事故時にドライバーを保護する逆U字型の構造体で、2026年規定で安全基準が強化されたなかで、レーシングブルズは他チームより明確に大型化したフォルムを採用した。これは安全マージンの確保と同時に、ロールフープ周辺のエアフローを意図的にリアに導く空力的な仕事も担っている可能性が高い。
リバリーは2025年シーズン後半から好評だった白基調を継承しつつ、フォードとのパートナーシップを象徴するフォード・ブルーのアクセントを差し込んだ新デザイン。これによりVCARB 03はパドックでも識別性が高い1台となっている。サスペンションは2026年規定下での機械的グリップ確保のため、フロント/リアの形式を慎重に選択した上で、ホイールベース短縮(最大3,600→3,400mm)と最低重量低減(798→768kg)に対応している。
ファエンツァファクトリー──小規模・高効率の開発拠点
レーシングブルズの開発拠点はイタリア・ファエンツァのファクトリーだ。レッドブル本体(ミルトン・キーンズ)と比較すると規模は小さいが、小回りの利く開発体制が強みで、設計から製造までのリードタイムを短く保つことに長けている。2024年以降は、技術側でのレッドブル本体との連携を強化しつつ、独自の風洞・CFDインフラへの投資も並行して進めた。
2026年新規定への対応では、限られた予算で空力リストパーツの開発に集中するため、非リストパーツ(ギアボックスケーシング、油圧系、ブレーキシステムの一部)はレッドブル本体から購入する戦略を維持する。これにより、フロアおよびディフューザーの空力開発に予算と人員を集中できる。
2026年新レギュレーション応答
2026年から導入される新テクニカルレギュレーションの主要ポイントは以下の通りだ。
- 車幅:2,000mm → 1,900mm
- ホイールベース:最大3,600mm → 3,400mm
- 最低重量:798kg → 768kg
- アクティブエアロ導入(DRS廃止)
- PU電動比率:約20% → 約50%、MGU-H廃止
- 燃料:100%サステナブル燃料
レーシングブルズにとっての規定変更は、「中団チームのチャンス」として捉えられる側面が強い。コストキャップ制度(バジェットキャップ)の存在により大チームとの予算差が縮小し、新規定で全チームが白紙からマシンを作り直す中で、過去の遺産(旧規定向けに最適化された設計の縛り)が少ない方が有利となるケースも考えられる。VCARB 03の独自路線は、この「白紙の年」のチャンスを最大限に活かす戦略だ。
組織体制──パーメイン代表とエギントンの2層構造
レーシングブルズの組織は、2025年7月のレッドブル本体側の経営交代(ホーナー解任、メキーズCEO就任)に連動して大きく動いた。それまでレーシングブルズのチーム代表を務めていたメキーズがレッドブル本体に昇格したのを受けて、アラン・パーメインがレーシング・ディレクターからチーム・プリンシパルに昇格した。パーメインはルノー(後にアルピーヌ)でレース戦略・スポーティング側を長年担ってきたベテランで、サーキット運営の経験値は中団チームの代表に求められる素養を満たす。
技術側はジョディ・エギントンがチーフ・テクニカル・オフィサーとして指揮を継続。エギントン体制での「独自路線」宣言は、組織として中長期的に方向性を定めた決断であり、2026年シーズンの結果如何にかかわらず、2027〜2028年に向けた独立性の高い中団チームへと変貌する道筋を示す。
ドライバー布陣──ローソン+リンドブラッドの新コンビ
2026年のレーシングブルズはリアム・ローソンとアービッド・リンドブラッドの組み合わせだ。ローソンは2024〜2025年にレッドブルとレーシングブルズを行き来した経歴を持ち、2026年はレーシングブルズで完全に腰を据える立場となった。レッドブル本体への昇格を再び目指すという個人目標と、チームの中団競争力向上というチーム目標が一致しており、モチベーション面では理想的な配置だ。
リンドブラッドはレッドブル・ジュニアプログラム出身20人目のF1デビュードライバーで、2026年が初めてのフルシーズン参戦となる。ジュニア時代からレッドブル系のシミュレーター環境に親しんでおり、新規定マシンへの適応速度が期待される。一方、F1ルーキーシーズンは予想外のミスや学びの過程が結果を不安定にする時期でもある。
2025年までフェルスタッペンの相方を務めたユキ・ツノダは、レッドブル本体およびレーシングブルズ両チームのリザーブドライバーに転出した。レッドブル系のキャリアを継続する形での配置で、出走の機会は両チームのどちらかでチャンスがあれば、という体制となる。Hadjarはレッドブル本体に昇格、両チームの2026年布陣はレッドブル系全体で再編されたラインナップとなった。
2026年序盤戦──白紙の年にどう走るか
2026年シーズンは中東情勢の影響でバーレーンGP・サウジアラビアGPが中止となり、シーズンが全22戦に短縮された。レーシングブルズにとってこの2戦の喪失は、新規定マシンの初期完成度を高めるための実走機会が削られることを意味し、欧州ラウンド突入までの開発リズムがタイトになった。一方で、レッドブル本体の序盤戦が苦戦傾向にあるため、姉妹チーム同士でのデータ共有よりも独自の方向性を貫く判断材料が増えている状況だ。
序盤戦のレーシングブルズの目標は明確だ。中団グループでの安定したポイント獲得と、コンストラクターズで6〜7位以内の確保。VCARB 03の素性が良ければ、中団トップ争いに食い込む可能性も残る。ローソンが安定してポイントを取り、リンドブラッドが学習曲線を急速に上げてサプライズを演出する役割分担が、シーズンの理想形となる。
競合比較──アルピーヌ/ハース/ウィリアムズとの違い
2026年の中団グループをレーシングブルズの視点から並べると次のようになる。
- アルピーヌ:メルセデスPU新規+ブリアトーレ+ニールセン体制。中団最大の振れ幅。
- ハース:フェラーリPU。コスト最適化と最小限スタッフでシーズンを戦う特異モデル。
- ウィリアムズ:メルセデスPU継続。アルボン+サインツのベテラン2人体制で安定。
- レーシングブルズ:レッドブル・フォードPUワークス供給+独自シャシー設計+ローソン+ルーキーの混成体制。
レーシングブルズの優位は、ワークスPUを使える唯一の中団チームであることだ。一方の劣位は、シャシー独自設計の初年度ゆえに完成度の不確実性が他の中団チームより高い点。新規定の白紙の年で「独自路線が当たる」シナリオが実現すれば、コンストラクターズ5位前後まで食い込む可能性は否定できない。
リスクと展望
2026年シーズンのレーシングブルズが直面するリスクは大きく3点に整理できる。第一はレッドブル本体の不調による波及。新規PU初年度の信頼性問題やシャシー設計の課題が同一PUを使うレーシングブルズにも影響する可能性がある。第二はルーキー育成の不確実性。リンドブラッドが想定より学習曲線を上げられない場合、シーズン全体のポイント獲得能力が大きく削られる。第三は独自設計のリスク。「兄チームのコピーをやめる」決断は哲学としては正しいが、初年度の設計完成度が低くなれば、結果が伴わずに路線変更を余儀なくされる可能性もある。
展望としては、シーズン後半に向けてVCARB 03の素性を磨き上げ、コンストラクターズ6位以内を確保する形が現実的な目標値だ。2027〜2028年に向けて、独自路線の正しさを証明し、中団トップに定着するチームへと変貌できるかが、レーシングブルズの中長期評価を決める。
まとめ──「コピーをやめた弟チーム」の挑戦
VCARB 03は、レッドブル系姉妹チーム制度の中で、レーシングブルズが独自の存在意義を打ち出した最初のマシンだ。エギントンの「コピーは作らない」宣言、ファエンツァファクトリーの開発効率、レッドブル・フォードのワークスPU、そしてローソン+リンドブラッドの新コンビ。これら4つの要素がうまく噛み合えば、中団トップ争いに本気で食い込む2026年が見える。短期成績だけでなく、中長期的な独立性の確立が、2026年シーズンの真の評価軸だ。
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