レッドブル・レーシングは2026年、PUサプライヤー、技術トップ、経営トップの3つを同時に入れ替えた。「Red Bull Ford Powertrains」初年度PU、エイドリアン・ニューウェイ離脱後の設計体制、そして2025年7月のクリスチャン・ホーナー解任とローラン・メキーズCEO就任。開幕戦オーストラリアGPはメルセデスのラッセル=アントネッリの1-2に持っていかれ、序盤戦は苦戦が明確になった。本稿はチーム史上最大の構造変動を、PU・シャシー・組織・序盤戦結果・挽回シナリオの5軸で解読する。
レッドブル・レーシングは2026年、チーム史上最大の技術的・組織的な転換に臨んでいる。PUは初の自社製、技術トップは長年のキーマン不在、経営トップは20年支えた人物の解任という三重の不確実性を、新レギュレーション初年度に背負った状態でシーズンインした。本稿はこの大変動を、データと公開情報で読み解く。
3つの構造変動を一度に被ったチーム
2026年のレッドブル・レーシングは、過去20年のチーム運営の前提が一気に書き換わった年として記録されることになる。第一にPUサプライヤーの変更。コスワース→ルノー→ホンダと続いた外部供給の歴史を断ち、自社開発の「Red Bull Ford Powertrains(RBPT)」製パワーユニット初年度に突入した。第二に技術トップの不在。長年F1の支配的な空力哲学を体現してきたエイドリアン・ニューウェイの離脱後、シャシー側の意思決定構造が再編された状態で新規定マシンRB22を作る必要があった。第三に経営トップの交代。クリスチャン・ホーナーが2025年7月9日に解任され、後任CEOにレーシングブルズで実績を積んだローラン・メキーズが就任した。3つの大変動が同時進行する組織で、史上最大級の規定改訂に挑むのが2026年のレッドブルである。

パワーユニット──Red Bull Ford Powertrains 初年度
レッドブルの新PUは、ミルトン・キーンズ拠点で内製される。フォードは2023年にレッドブルとの技術提携を発表し、特にバッテリーセル技術とERS(エネルギー回生システム)領域で深く関与している。2026年規定はハイブリッド比率が従来の約20%から約50%へ大幅に上がり、MGU-Hを廃止、合成燃料100%への移行が含まれる。エネルギー回生と放出のマネジメント精度がストレート速度を直接左右する規定設計であり、フォードがアメリカで蓄積したEVバッテリー知見が活きやすい構造になっている。
ただし、新規PUの自社開発は初年度の信頼性がほぼ確実に課題になる。歴史を遡れば、ルノーが1989年復帰時、ホンダが2015年マクラーレン復帰時、メルセデスPUを採用する各チームが2014年規定変更時――いずれも「初年度の信頼性問題」を経験している。レッドブル・フォードがこのジンクスをどこまで打ち破れるかは、シーズン後半の走行データの蓄積次第だ。
長年のパートナーだったホンダ(HRC)は2025年限りでレッドブル陣営を離れ、2026年からはアストンマーチンにワークス供給する新フェーズへ移行した。ホンダ離脱は2021〜2024年のフェルスタッペン4連覇を支えたPUノウハウの内部化が間に合わなかったことを意味し、レッドブル・フォードPUの完成度はゼロからの出発に近い。
シャシー──ニューウェイ離脱後の開発体制
エイドリアン・ニューウェイは2024年5月に退団が発表され、2025年3月に正式離脱、同月からアストンマーチンにマネージング・テクニカル・パートナーとして加入した。レッドブルの空力哲学は長年、ニューウェイの個人的なセンスと判断に依存してきた部分が大きく、組織図上で後任を1人立てれば済むという話ではない。実際、技術組織はピエール・ヴァシェ(テクニカルディレクター)を中心に複数体制で再編されたが、初代RB22の開発はニューウェイ抜きで完遂された最初のマシンとなる。
2026年新規定は、車幅を2,000mm→1,900mm、ホイールベースを最大3,600mm→3,400mm、最低重量を798kg→768kgに圧縮し、DRSを廃止してアクティブエアロを導入する大改訂である。短く・狭く・軽いマシンに、ストレート低ドラッグ/コーナー高ダウンフォースの切替制御を載せるという、過去の経験則が部分的にしか通用しない設計課題が突きつけられている。RB22は風洞相関と実走の整合に序盤戦から課題を抱えており、この相関の作り直しがどれだけ早く進むかが2026年シーズンの分水嶺となる。
経営──ホーナー解任とメキーズCEO就任
2025年7月9日、レッドブルはクリスチャン・ホーナーをCEO兼チーム代表から解任すると発表した。2005年の参戦初年度から20年間チームを率い、ドライバーズ8回・コンストラクターズ6回のタイトルを獲得した功労者の解任は、F1界に大きな衝撃を与えた。背景にはチーム内のパワーバランス問題、レッドブルGmbH本社との関係、開発戦略の方向性をめぐる対立など複数の要因が指摘されているが、最終的にレッドブル本社の判断として実行された。
後任にはローラン・メキーズが就任。フェラーリでスポーティング・ディレクターを務めた後、姉妹チームのレーシングブルズ(旧アルファタウリ/VCARB)で2024年からチーム代表を務めており、レッドブル・グループ内での信頼と実績を兼ね備える人物だ。アラン・パーメインが入れ替わりでレーシングブルズ代表に昇格する人事連動も同時に発表された。メキーズの最初の仕事は、ニューウェイ不在+新PU初年度+規定大改訂という3重苦の中でチームをまとめ直すことだ。
2026年序盤戦──開幕戦の現実
2026年シーズンは2026年3月8日のオーストラリアGP(メルボルン)で開幕した。決勝はジョージ・ラッセル(メルセデス)が優勝、キミ・アントネッリ(メルセデス)が2位でメルセデスが1-2フィニッシュ。シャルル・ルクレール(フェラーリ)が3位、ルイス・ハミルトン(フェラーリ)が4位と続く結果となった。新レギュレーション初年度の覇者をメルセデスが先取りした格好で、レッドブルは表彰台争いから明確に距離を空けられた状態でシーズンインした。
RB22は風洞・CFD・実走の3点相関に序盤戦から課題があると報じられており、メルセデスやフェラーリと比べてコンセプト初期の完成度で後れを取っているのが実情だ。マシンの素性に手を入れる大型アップデートをどのタイミングで投入できるかが挽回の鍵となる。
中東情勢の影響──カレンダー24戦→22戦
2026年シーズンは当初24戦のカレンダーが発表されていたが、シーズン序盤に中東情勢が急変。イスラエルおよび米国によるイラン攻撃を受け、FIAは3月15日にバーレーンGP(4月12日決勝予定)とサウジアラビアGP(4月19日決勝予定)の中止を発表し、代替開催を行わずにシーズンを全22戦に短縮することを決定した。中東2連戦の喪失はレッドブルにとっては開発リズムの観点で痛手で、序盤戦の試走機会が2戦分減ったことになる。マイアミGP以降の欧州ラウンド突入までに、RB22の根本コンセプトをどこまで詰められるかが再起の現実的な分水嶺だ。
ドライバー布陣──フェルスタッペン+アジャール
2026年のレッドブルのドライバーラインナップは、エースにマックス・フェルスタッペン、セカンドにイザック・アジャール(Isack Hadjar)の組み合わせとなった。アジャールは2025年にレーシングブルズでF1デビューし、ルーキーながら10戦でポイント獲得、3度のトップ6入賞、オランダGPで初表彰台を経験した実績で、レッドブル本体への昇格を勝ち取った。一方、2025年までフェルスタッペンの相方を務めたユキ・ツノダはレッドブルおよびレーシングブルズ両チームのリザーブドライバーに転じている。
レッドブル史上、フェルスタッペンの隣に座るドライバーは長年「マシンとフェルスタッペンの両方に潰される席」と評されてきた。アジャールにとっての2026年は、新規定マシンの未確定要素が大きく、過去のセカンドドライバーが直面した「フェルスタッペン仕様マシン」とは前提条件が異なる。マシンの方向付けにアジャールのフィードバックがどこまで反映されるかは、若手ドライバー育成の観点でも興味深い論点だ。
競合比較──マクラーレン/フェラーリ/メルセデスとの違い
2026年の主要勢力を、レッドブルの立ち位置から見ると次のようになる。
- メルセデス:8連覇のPUノウハウ+ゼロポッド失敗からの立て直しが完了。開幕戦1-2で先頭。
- フェラーリ:シャシー+PU完全自社開発。ハミルトン加入の知見も加わる。
- マクラーレン:2024年王者。シャシー先行の相関精度+分散型技術組織で安定。
- レッドブル:自社製PU初年度+ニューウェイ不在+経営交代の三重苦。最大の振れ幅を抱える。
レッドブルの2026年は、ダウンサイドが最も大きい一方で、自社統合設計のアップサイドも最大級というハイリスク・ハイリターンの陣営である。
リスクと挽回シナリオ
2026年シーズンのレッドブルが直面するリスクは大きく3点に整理できる。第一はPUの信頼性。新規PU初年度の典型的な落とし穴を回避できるかは、ミルトン・キーンズのRBPT拠点の試走データ蓄積速度に依存する。第二はシャシーの相関再構築。ニューウェイ抜きで進めた初代RB22の課題を、メキーズ体制の技術陣がどこまで早く特定し直せるか。第三は組織政治の安定化。経営交代直後のチームが、新規定への対応リソースを最大限動員するためには、内部の意思決定スピードを犠牲にしないリーダーシップが必要となる。
挽回シナリオとしては、欧州ラウンド突入のスペイン~モナコ~カナダにかけての大型アップデートで風洞相関を立て直し、シーズン後半に勝ち星を1〜2に乗せて2027年のシード作りに繋げる線が現実的なベストケースだ。フェルスタッペンの個人能力で1〜2勝は十分射程内だが、コンストラクターズ上位返り咲きには来年以降を見据えた長期戦の覚悟が必要となる。
まとめ──「ホーナー=ニューウェイ=ホンダ」時代の終焉
2026年のレッドブル・レーシングは、20年続いた「ホーナー=ニューウェイ=ホンダ」の三角形を全て失った状態で新規定に挑む。これは衰退の始まりではなく、自社製PUを軸とする新しいレッドブルを組み上げ直す再出発のフェーズだ。短期成績の代償は避けられないが、自社統合設計の優位を確立できれば、メルセデスが2014年以降に築いたような長期支配の構造を再構築する可能性は残されている。2026年シーズンは、その第1章にすぎない。
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